研究課題
前年度の研究で求められたウイルス量を半減させることのできる濃度(EC50)の10倍の濃度のプロテーゼ阻害剤をもちいてウイルス増殖実験を行った。ウイルス感染72時間後まで経時的にウイルス量をリアルタイムPCR法で定量化し、さらにウイルスヘマグルチニン(HA)の開裂の様子をウェスタンブロット法にて確認した。1.ウイルス感染8時間後までは、トリプシン添加プロテアーゼ未添加条件、トリプシン未添加プロテアーゼ未添加条件、トリプシン未添加プロテアーゼ添加条件のいずれのウイルス量にも差はなかった。2.培養72時間後の培養上清中のウイルスHAの開裂について、トリプシン添加プロテアーゼ未添加条件ではすべてのHAは開裂、トリプシン未添加プロテアーゼ未添加条件では約半数のHAが開裂、トリプシン未添加プロテアーゼ添加条件ではほとんどのHAが未開裂であった。3.各条件下でウイルス感染細胞内の細胞質基質を回収しウイルスHAについて確認したところ、HAは非開裂状態であった。以上から、インフルエンザウイルスは感染8時間以内に第1世代のウイルス複製が完了することが示唆された。さらに、各条件下でのHA開裂状況からHAはMDCK細胞が細胞外へ産生・分泌しているプロテアーゼにより開裂を受けていることが示唆された。次に培養上清を用いて、ザイモグラムによりプロテーゼの検出を試みた。1.ザイモグラムにて、カゼインまたはゼラチンを分解するプロテアーゼが検出された。しかし、これらの活性はウイルス増殖を抑制するプロテアーゼによって抑制されなかった。これは、HA開裂は細胞から培養上清中に分泌されるプロテアーゼの作用によらない、またはザイモグラムでは検出できないプロテアーゼの作用によりHAが開裂をうける可能性を示唆するものである。
3: やや遅れている
プロテアーゼの作用によりHAが開裂することは明らかであるが、様々な方法により細胞分画におけるプロテーゼの同定を試みているが、同定までには至っていない。研究計画当初よりもMDCK細胞を用いた手法の確立に時間を要していることから、実際のヒトアデノイドから単離した上皮細胞を用いた研究まで至っていない。
HAが開裂していないウイルスを作製し、これを細胞に感染させさまざまなタイミングでウイルスHAの開裂の状況をウェスタンブロッティングで詳細に検討することにより、細胞内外でのHA開裂のタイミングについてさらに検討を加える。また、細胞分画を感染前後、さらにウイルス感染を経時的に細かく単離することによりHA開裂に関与するプロテーゼの同定を試みる。プロテーゼの同定には質量分析による同定も検討する。
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