小児のネフローゼ症候群は比較的頻度の高い腎臓病で、約80%は微少変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephrotic syndrome: MCNS)を呈する。MCNSにはステロイドが著効するが、その作用機序は不明である。 近年、MCNSにおいて、免疫系の活性化に重要な役割を果たす転写因であるNF-κBの異常活性化がその病因に関与しており、ステロイドはNF-κBの機能抑制を介して臨床的有効性を発揮するという考え方がある。近年開発されたNF-κB阻害薬であるdehydroxy-methyl-epoxyquinomicin(DHMEQ)は、NF-κBに直接結合し、特異的にNF-κB分子の活性を抑制する。またPuromycin-aminonucleoside (PAN)は、マウスやラットにMCNS類似の病態を生じさせる。 そこで、本研究では、マウスにPANを投与してMCNSモデルを作成し、DHMEQの治療効果に関して検討を行った。すなわちC57BL/6マウスにPANを投与し、その投与直前および翌日から4日連続でDHMEQを投与し、PAN単独投与群(DHMEQ非投与群)と比較した。その結果、DHMEQ非投与群では有意な蛋白尿、高脂血症、低アルブミン血症を呈したのに対し、DHMEQ投与群ではこれらの所見は有意に軽減した。またNF-κBにより誘導されるサイトカイン・IL-6の血中濃度や、NF-κBの核内局在を検討した結果、DHMEQ投与群で有意に血中IL-6の上昇抑制、核内局在阻害が確認された。さらに電子顕微鏡による観察では、DHMEQ非投与群で糸球体上皮細胞足突起の構造消失を認めたが、投与群では保たれていた。 以上の結果より、NF-κBは本症の発症に重要な役割を果たしており、NF-κB阻害薬DHMEQは本症の新規治療薬となる可能性があると思われた。
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