研究課題/領域番号 |
22591204
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
岩井 正憲 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (80467993)
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キーワード | 新生児低酸素性虚血性脳症 / 神経幹細胞 / 自己移植 / Neurosphere法 / 脳室内投与 / EGF / b-FGF |
研究概要 |
平成22年度の研究では、仔ラット新生児低酸素性虚血性脳症モデルにおいて、脳梗塞領域内に神経幹細胞/神経前駆細胞が存在し、それは脳虚血導入3日後が最も増殖能力が強く、かつ3系統の神経系細胞(ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト)に分化することを証明した。それを受けて平成23年度は脳梗塞領域から神経幹細胞/神経前駆細胞を採取することが、脳梗塞組織そのものや仔ラットの運動機能に影響を及ぼすかについて検討した。 低酸素虚血負荷後3日の仔ラットの頭部MRIを撮影した後、脳梗塞領域から27G針とハミルトンシリンジを使用して20μlの脳組織を吸引した。虚血負荷後7日(吸引後4日)の頭部MR Iではむしろ脳梗塞領域の拡大傾向が認められ、運動機能検査も悪化傾向が認められた。脳梗塞領域での内在性神経幹細胞の働きの1つに、神経保護興効果が報告されており、今回の結果も新生児虚血脳において同様の働きがみられていることを示唆していると考えられる。 今回の研究では、脳梗塞領域から採取した神経幹細胞/神経前駆細胞が強い増殖能力を持つことから、体外に取り出してNeurosphere法で培養、増殖させ、炎症が治まった時期に自家移植することで神経の再生を図ろうとするものであった。今までの研究で得られた結果からは、神経幹細胞/神経前駆細胞を採取すると組織障害が大きくなる可能性が高いため、自己移植に適切な環境が得られない可能性が高い。 そこで、体外に神経幹細胞/神経前駆細胞を取り出すのではなく、脳梗塞領域で同細胞が増殖できるように、脳室内にNeurosphere法で使用するEGF及びbFGFを投与する方法を試みた。本研究で脳虚血後3日に最も増殖力が強いことが明らかにされているので、同日に虚血対側の脳室内にEGF、bFGFの投与を試み、既に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回の研究では、新生児低酸素性虚血性モデルを用い、虚血負荷後3日の脳梗塞領域内に非常に増殖能の強い神経幹細胞/神経前駆細胞があることが明らかとなったが、神経幹細胞/神経前駆細胞の採取により脳梗塞領域の拡大傾向が認められた。したがって自己移植そのものは予後の改善には適切でない可能性が出てきたため、今後は虚血負荷後3日の脳梗塞領域内で神経幹細胞/神経前駆細胞の増殖を賦活する方向で検討することにした。研究は平成24年度に終了できる予定であるが、方向修正を行ったため進捗状況は当初の計画より若干遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究では新生児低酸素性虚血性脳症モデルでの自己神経幹細胞移植を目指し、(1)脳梗塞領域内での神経幹細胞/神経前駆細胞が存在し、(2)虚血負荷3日後の脳梗塞領域内から採取された神経幹細胞/神経前駆細胞が最も強い増殖能を示し、(3)神経3系統に分化することを示したが、採取後に脳梗塞領域は拡大傾向を示し、それは神経幹細胞/神経前駆細胞の神経保護効果を損なわせたためと推測できた。この方法は治療としては難しいと判断、今までの実験結果をもとに、最も増殖力の高い時期に内在性神経幹細胞/神経前駆細胞を賦活化することで、組織修復を試みる方法に変更する。計画としては脳虚血負荷後3日目に仔ラットの脳梗塞領域対側の側膨室にNeurosphere法で用いるEFG及びb-FGFを注入し、内在性神経幹細胞/神経前駆細胞の増殖を賦活化し、脳梗塞領域での神経新生を組織学的に検討するとともに、神経行動学的評価を行う。既に脳室内にEGF及びb-FGFを投与する方法は確立できた。現在は投与量について組織学的な検討を行い、至適量を求めているところである。
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