本研究は出生時の血清浸透圧変化が動脈管閉鎖にどのように影響するのかを明らかにし、出生後の血清浸透圧の管理が未熟児動脈管開存症の発症予防および治療において意義があるか検討することを目的とする。 本年度は動脈管の血管張力に対する低浸透圧刺激の効果の検討、ならびに、動脈管培養細胞に対する低浸透圧刺激時の細胞内Ca濃度の検討を行い、更にラット動脈管に低浸透圧センサーTRPM3チャネルが多く発現することに着目しその関与について検討した。 ラット新生仔で浸透圧が低下しないモデルを作製し急速全身凍結法を用いて動脈管収縮について検討した結果、浸透圧が低下しないモデルでは動脈管収縮が抑制された。ラット胎仔で同方法を用いた検討で、TRPM3刺激薬Pregnenolone Sulfateにより動脈管収縮が促進された。 培養細胞による検討でfura2を用いた細胞内カルシウム濃度[Ca_<2+>]i測定では、低浸透圧刺激により動脈管平滑筋細胞では[Ca_<2+>]iは上昇したが大動脈平滑筋細胞では変化しなかった。siRNAを用いてTRPM3の発現を抑制すると低浸透圧刺激による動脈管平滑筋細胞の[Ca_<2+>]iの上昇は抑制された。 これらの結果より、出生後の血清浸透圧の低下がTRPM3チャネルを介して動脈管収縮を促進することが示唆された。 この研究結果は、ヒト早産児において血清浸透圧がどのように推移するか、在胎週数、未熟児動脈管開存症発症の有無との関係、血清浸透圧を変動させる構成要素を把握する等の臨床データと合わせて検討することにより、未熟児動脈管開存症の発症および重症化を予防するための輸液管理の提案に役立つという臨床的に重要な意義がある。
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