本研究は出生時の血清浸透圧変化が動脈管閉鎖にどのように影響するのかを明らかにし、出生後の血清浸透圧の管理が未熟児動脈管開存症の発症予防および治療において意義があるか検討することを目的とする。 これまでのラットを用いた動脈管平滑筋細胞内Ca濃度の検討および血管張力実験で、低浸透圧刺激に対する動脈管の収縮の機序として主に低浸透圧センサーTRPM3チャネルが作用する可能性が示唆された。 本年は前年度に引き続きヒトにおける生後血清浸透圧の検討を行い、ラットのみならず、ヒトにおいても血清浸透圧が出生後早期に有意に低下し、その低下の程度が在胎週数に依存することが明らかとなった。臍帯血血清浸透圧と比べて、在胎28週未満の超早期産児では、生後に血清浸透圧低下がほとんど見られず、より成熟した後期早産児では血清浸透圧が有意に低下することが明らかとなった。超早期産児のうち未熟児動脈管開存症発症群では、非発症群に比較して、浸透圧の上昇が早期に起こり、出生後早期の血清低浸透圧が動脈管閉鎖において重要な役割を果たしている可能性がヒト臨床においても示唆された。 血清浸透圧の変化を左右する周産期因子の検討からは、呼吸窮迫症候群発症群で出生時の血清浸透圧が非発症群に比べて有意に高く、また、5分APGAR<7の群では7=<の群に比べ早期の血清浸透圧上昇をきたすことが明らかとなった。これらの因子を有する児は元来、動脈管開存症を発症しやすいと考えられており、今回の研究から、高血清浸透圧がさらに動脈管の閉鎖を阻害していると考えられることから、適正な浸透圧維持に配慮して輸液管理と治療への介入を積極的に行うことは、動脈管開存症の発症予防・重症化予防に役立つ可能性があると考えられた。
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