自己複製能・多分化能をもつ幹細胞を用いた再生医療は、様々な医療分野で期待されている。これまてに私たちは、新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)モデルラットを用いて、神経幹細胞の脳室内投与とともに、幹細胞周囲の微小環境分子であるコンドロイチン硫酸などの糖鎖を制御することにより、ラット脳梗塞が軽減できることを明らかにしてきた。本研究では、新生児において最も安全かつ簡便に採取できる幹細胞源である臍帯血幹細胞を用いて、周生期脳障害に対する効率的な再生医療法を開発するとともに、その分子基盤を明らかにすることを目的としている。 ラット胎仔より臍帯血を採取し有核細胞層を分離し凍結保存した後、HIEモデルラットに腹腔内投与した。臍帯血有核細胞を投与したラットでは対照群に比較して行動評価で活動性が高い傾向が観察された。しかし、ラット胎仔より採取できる臍帯血有核細胞数はモデルラットに投与するには極少数であり、有効か否かを判定するための例数が集まらないことがわかり、臍帯血幹細胞を増殖させる必要性が明らかとなった。そこで、ラット臍帯血有核細胞を幹細胞成長因子など4種のサイトカイン存在下で培養し、増殖させた後、HIEモデルラットに投与した。増殖させた臍帯血幹細胞を投与したラットでは、凍結臍帯血投与のときと同様に、対照群に比較して行動学的に活動性が高い傾向が観察された。現在、例数をさらに増やして検討中である。
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