研究概要 |
本研究は、新生児において最も安全かつ簡便に採取できる幹細胞源である臍帯血幹細胞を用いて、周生期脳障害に対する効率的な再生医療法を開発し、その分子基盤を明らかにすることを目的とする。これまでヒト臍帯血幹細胞や間葉系幹細胞を動物モデルに用いた報告はいくつかあるが、その効果は実験条件により様々である。本研究では、ラット臍帯血幹細胞をラット新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)モデルに移植することによる治療効果を検討した。 ラット胎仔より臍帯血を採取し、有核細胞層を分離、4種のサイトカイン存在下で培養し増殖させた(UCBC)。CFU-GMアッセイを行ったところ、培養10日目での総コロニー形成細胞数は約400倍に増加していた。この増殖させた細胞(UCBC)をHIEモデルラットに受傷3日後に腹腔内投与し、受傷3週間後に行動学的、組織学的に評価した。UCBC投与群では患側/対側の残存脳面積が対照群に比較して大きかった。また、Cylinder test, Rotarodなどの行動実験を行ったところ、UCBC投与群では左右差が軽減し、運動機能の改善が観察された。以上のことから、臍帯血幹細胞の腹腔内投与が、HIEに対する治療法として有用であることが示唆された。しかし、その効果には個体差があることから、今後臨床に応用していくためには、幹細胞による梗塞軽減効果の機序を明らかにしていく必要があると考えられた。また、胎生19日目のラット胎仔臍帯の免疫組織染色を行ったところ、臍帯動静脈壁にコンドロイチン硫酸糖鎖の発現が観察された。この結果は、糖鎖により臍帯血幹細胞の分化増殖や性質が制御されている可能性を示唆している。
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