昨年度までに走査型顕微鏡を用いた形態観察により、足底に生じた色素細胞母斑(良性)では表皮基底面上に真皮側に向かって均一に分布する腫瘍細胞がみられるが、悪性黒色腫では逆に基底面に露出する腫瘍細胞はみられず、表皮細胞間が開大し、間隙から腫瘍細胞が認められた。この結果から、色素細胞母斑と悪性黒色腫では表皮基底層において腫瘍細胞の局在する層がもともと異なっているのではないかと推測された。 走査型顕微鏡では、基底層の内部の観察が難しいため、今年度はホルマリン固定後のパラフィン包埋切片を用いて免疫組織化学染色による検討を行った。足底に生じた色素細胞母斑(9名)および悪性黒色腫(9名)に対してHMB45、Melan A抗体を用いた腫瘍細胞の染色、CK14抗体を用いた表皮基底細胞の染色を行い、腫瘍の局在部位についてさらに研究をすすめた。その結果、色素細胞母斑では多くの例で基底層からあたかも突出するように基底膜に接する腫瘍細胞の胞巣が認められた。一方、悪性黒色腫では色素細胞母斑と比較して基底膜に接する腫瘍細胞の胞巣は少なく、基底層内の角化細胞間に多くの腫瘍細胞がみられた。 以上の所見から、悪性黒色腫ではもともと基底層に局在する腫瘍細胞が母斑細胞母斑とは異なり、基底膜から離れた部位に存在し、まず表皮内(有棘層)で増殖した後に基底膜側に移動し、真皮内へ浸潤する可能性が示唆された。足底に生じた色素性病変は良・悪性の診断が難しい例もあり、今回の我々の研究結果は、悪性黒色腫と色素細胞母斑との鑑別に有用であると考えられた。
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