研究概要 |
悪性黒色腫 (メラノーマ) は極めて転移しやすく, 遠隔転移したメラノーマの5年生存率は10%以下である. SIRT1は酵母の長寿遺伝子Sir2の哺乳類オルソログで, NAD 依存性の脱アセチル化酵素活性を有する. SIRT1は多数の細胞遺伝子発現を調節し, アポトーシスの抑制や酸化ストレス耐性の増強などに関与する. メラノサイトおよびメラノーマ細胞におけるSIRT1の発現を検討した結果, SIRT1は細胞質に発現し, SIRT1阻害によりメラノーマ細胞 (B16F1, MM418) の移動が抑制された. メラノーマ細胞の遊走と転移に関わるSIRT1機能を詳細に検討し以下の結果を得た. 細胞の接着・遊走とlamellipodium (膜状仮足) の形成には, アクチンフィラメント, cortactin, Rac1などの分子が関与する. SIRT1はB16F1細胞においてcortactinの一部に結合し, Dominant-negative Rac1はB16F1細胞のlamellipodium形成を抑制した. SIRT1は, 血清増殖因子添加後, lamellipodiumに集積し, PIP-3レベルを上昇させた. B16F1細胞において, SIRT1阻害薬は細胞移動に加えて, lamellipodiumの形成, およびPIP-3レベルの上昇を阻害した. C57BL6マウス皮下にB16F1メラノーマ細胞を移植し, 腹腔内浸潤およびリンパ節転移率をnicotinamide投与群と生食投与群間で比較した結果, 18%と77%であった. 以上の結果から, SIRT1はメラノーマの浸潤と転移に関与し, SIRT1阻害はメラノーマ転移の抑制に臨床応用できる可能性が示された.
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