全身諸臓器に線維化・石灰化をきたす腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis: NSF)は、ガドリニウム(Gd)造影剤を透析患者に投与することにより生じることが知られている。我々はこれまでにヒト皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞、ヒト皮膚真皮由来線維芽細胞を用いた検討を行い、Gdによる線維化病変および石灰化病変形成機序を明らかにしてきた。本研究では、これまでにin vitroで得た知見を元に、ガドリニウムを用いた線維化疾患モデルマウス、石灰化疾患モデルマウスを作製し、その発症メカニズムを詳細に検討することを目的とした。まず最初に、様々な種類のマウスにGdやリンを局所注射して、皮膚線維化、石灰化を試みたが、成果は得られなかった。そこで、次に間葉系幹細胞の局所注入とGd徐放化ドラッグデリバリーシステム(DDS)を用いて、皮膚線維化モデルマウス、皮膚石灰化モデルマウスの作製を試みた。生体吸収性ゼラチンハイドロゲルを用いた徐放化DDS医薬品は、細胞増殖因子や薬剤を局所に徐放することにより、薬理活性を高めることができる。まず、マウス骨髄より間葉系幹細胞を誘導、作成した。作成した間葉系幹細胞とGd徐放剤の局所注入を行った。その結果、局所の石灰化はみられなかったものの、皮膚の線維化がみられた。さらに石灰化の誘導を目的として、より腎性全身性線維症の病態に近いモデルを作成するために、マウスの腎臓を片方摘出した後に、間葉系幹細胞とGd徐放剤の局所注入を行った。しかし、局所の石灰化は得られなかった。今後は今回得られたGdによる皮膚線維化モデルマウスを用いて、その機序を解明し、治療への応用を目指す。また、Gdによる皮膚石灰化モデルマウスの作成についても更なる検討を行う。
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