本年度はストレス応答を制御するHPA系に着目した自殺関連遺伝子として、既にHPA系制御との関連が報告されているFKBP5遺伝子に着目して相関研究を行ったところ、同遺伝子ハプロタイプと日本人における自殺既遂者との間に相関を認めた。本研究計画の端緒は、自殺行動を起こす状態にある患者は、ある特定のストレス過剰状態が存在すると想定し、そのストレス過剰状態を血液サンプルから類型化しバイオマーカーとして碓立することができれば、疾患を問わず自殺行動を予測し予防できるのではないかと考えた点にある。バイオマーカーの検出方法としては、自殺行動に至る過剰ストレス状態においては、ストレスホルモンであるコルチゾール、神経ペプチド、サイトカイン、炎症、酸化ストレス、タンパク分解酵素活などの亢進の結果、メタボロームが産生され、血中に放出されていると予想される。そこで、本研究では、そのようなメタボロームの変化を複数組み合わせたマルチバイオマーカーという概念を提唱し、マルチバイオマーカーが自殺行動を引き起こす過剰ストレス状態の新しいバイオマーカーとなるのではないかと考え、その検索を行い、この概念の正当性を検証することを目的としている。本年度は当研究に先行する準備的研究として、神戸大学医学部付属病院精神神経科に通院および入院中の統合失調症患者における抗精神病薬治療と脂質代謝異常の関連について血液サンプルのメタボローム解析を神戸大学医学研究科質量分析総合センターにおいて実施中であり、成果発表を予定している。文献的にも自殺企図患者にメタボローム解析を適応する試みはいまだなされていないため、予備的研究における手技および結果解釈の習熟の後、この高感度の質量分析計を活用して、計画に従い自殺企図患者の血液サンプルのメタボローム解析を行い、自殺行動を惹起する過剰ストレス状態の新しいバイオマーカーとなるマルチバイオマーカーを探索する。
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