本研究計画の端緒は、自殺行動を起こす状態にある患者は、ある特定のストレス過剰状態が存在すると想定し、そのストレス過剰状態を血液サンプルから類型化しバイオマーカーとして確立することができれば、疾患を問わず自殺行動を予測し予防できるのではないかと考えた点にある。自殺のメタボローム解析は、検討の価値は高いと考えるが、「うつ状態」における自殺企図においては、heterogeneityが大きいことが予想されるため、まずは統合失調症群に疾患群を絞って解析を開始することを計画した。先行研究として、血清脂質(低コレステロール血症)と攻撃性・自殺行動増加の関連が指摘されており、予備的研究として統合失調症患者の治療薬(抗精神病薬)の違いによる脂質プロファイルの変化の有無についても比較検討を行なうことを計画した。 本研究においては、前年度に引き続き、神戸大学医学部附属病院精神神経科に通院および入院中の統合失調症患者の抗精神病薬治療と脂質代謝異常の関連について、総数60例の血液サンプルの収集を行なった。また併行して、15例の生命的危険性の高い企図手段をもちいた自殺企図(飛び降り、縊頚等)を行なった統合失調症患者の血液サンプルの収集も行なっており、神戸大学医学研究科質量分析総合センターにおいて予備的研究ののち、自殺企図患者にメタボローム解析を適応し、この高感度の質量分析計を活用して、自殺企図患者の血液サンプルのメタボローム解析を行い、自殺行動を惹起する過剰ストレス状態の新しいバイオマーカーとなるマルチバイオマーカー探索に取りかかっている。 今後、患者の臨床的背景として、対象患者全例に実施したPANSSによる敵意等の評価およびBACS-Jを用いた統合失調症の認知機能評価と自殺行動との関連についても検討を加え、精神疾患患者の自殺リスクの早期拾い上げ、自殺再企図予防の可能性について成果発表を予定している。
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