研究概要 |
本研究の主目的は「抗精神病薬により活性化するFynと下流分子の精神薬理学的機能を明らかにすること」であり、H22年度は下流分子AおよびBのリン酸化部位を明らかにし、その機能解析に着手する計画であった。 まず、下流分子Aについてはリン酸化部位が明らかになった。すなわちマウスにHaloperidolおよびClozapine,Olanzapineを投与し、主要な6個のチロシン残基をリン酸化特異抗体で解析したところ、いずれの抗精神病薬も機能的に重要な3つの残基のリン酸化を有意に亢進させた。一方、下流分子Bについて、上記の抗精神病薬でリン酸化が亢進することは免疫沈降で確認したが、LC-MS/MS解析によるリン酸化部位の同定には成功しなかった。すなわち、薬物投与後のマウス脳を材料とし、リン酸化物をカラム精製後、分子Bに対する抗体で免疫沈降し、SDS-PAGEのゲルを切り抜いてLC-MS/MS解析を数度行ったが、分子自体は検出されるもののリン酸化部位の同定には至らなかった。原因は夾雑物の混入と量の少なさとが考えられた。次年度は専門家のアドバイスを受けつつ再挑戦する。 また、当初の計画では本年度の後半より培養細胞を用いた機能解析を予定していた。しかし、学会等での指摘をたびたび受け、精神症状発現におけるFynカスケードの役割を明らかにするためには、細胞や動物を用いるよりも、当初予定していなかった患者死後脳を用いた解析の方が、より直接的で重要であると判断した。そこで、統合失調症、うつ病等各15例を含む、死後脳前頭皮質60検体をStanley研究所より譲り受け、Fynの活性状態、下流分子の測定をブラインドで行った。測定を正確に行うため、新たなFynのSandwich ELISAと下流分子のドットプロット解析系を構築した。その結果、FynおよびFynの活性が統合失調症で有意に亢進していることが明らかとなった。一方、下流分子群の量自体には変化がなかった。今後、下流分子群のリン酸化や薬物投与量との相関等も解析し投稿する予定である。
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