今年度は海馬苔状細胞NR1欠損マウスを用い、主に神経新生の変化を組織学的に検討した。このマウスでは海馬歯状回顆粒細胞下帯(subgranular zone)においてKi67やPCNAといった分裂期細胞のマーカー陽性細胞数の有意な減少を認め、またダブルコルチンやNeuroDといった神経前駆細胞マーカーの陽性細胞数の減少も認めた。以上から、海馬苔状細胞はNMDA受容体を介して神経新生の促進あるいは維持に関連することが明らかとなった。これについての作用機序を調べるため、さらに同マウスを用いてGABA合成酵素の一つであるGAD67で免疫染色したところ、対照と比較して海馬歯状回において染色濃度の有意な減少を認めた。またパルブアルブミン免疫染色では、歯状回顆粒細胞パルブアルブミン陽性細胞数の減少を認めた。近年、GABA介在ニューロンが特に初期の神経新生に大きく影響することが知られており、また海馬歯状回苔状細胞はGABA介在ニューロンに軸索を送り、その活動性の維持に関与している。これらの結果を総合すると、このマウスでは海馬歯状回苔状細胞のNMDA受容体の欠損により、歯状回のパルブアルブミン陽性細胞を含むGABA介在ニューロンの活動性が低下し、結果として顆粒細胞下帯の神経新生の減少に至った可能性が考えられる。近年、顆粒細胞下帯の神経新生異常と統合失調症の発症メカニズムとの関連が注目されており、今後は今回の結果を踏まえ、行動面での表現型との関連を中心に研究する予定である。
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