磁気共鳴画像(MRI)を用いた前年度までの検討により、統合失調症における嗅溝形態の変化が見出されている。この形態変化は評価が簡便なこともあり、統合失調症の脳形態マーカーとして今後の診断への応用が可能と考えられた。このため今年度は種々の精神病性障害群(前駆状態を含む)や双極性感情障害群で嗅溝の計測を行い、その疾患特異性の検討を行った。その結果を以下にまとめる。 1. 精神病発症の高危険群であるアットリスク精神状態(at risk mental state; ARMS)において、後に精神病を発症する群ではしない群と比較して有意に両側性に嗅溝の深さが浅かった。 2. 初回エピソードの種々の精神病性障害(統合失調症46 例、統合失調症様障害57 例、精神病症状を伴う気分障害34 例、およびその他の精神病性障害25 例)で嗅溝形態を比較したが、疾患間で有意差はなかった。 3. 双極性障害患者においても、年齢および性別をマッチングさせた健常対照群と比較して、両側性に有意に嗅溝の深さが浅かった。罹病期間、臨床症状、服薬等と嗅溝形態に有意な関連はみられなかった。 これらの結果から、嗅溝形態は精神疾患の発症に先立ち存在する発症予測マーカーとなりうるが、統合失調症に特異的な変化とはいえず、今後さらに疾患特異性を検討する必要があると思われた。
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