研究課題/領域番号 |
22591278
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
和田 有司 福井大学, 医学部, 教授 (30175153)
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キーワード | 統合失調症 / 脳イメージング / 機能的MRI / 認知機能 |
研究概要 |
統合失調症の認知機能障害の背景にある病的基盤を明らかにするため研究をすすめている。初年度の研究ではマルチフラクタル解析を用いて本疾患の脳波異常を検討し、統合失調症では安静時脳波の複雑性が上昇していることを示した。23年度では本疾患の社会性の障害をもたらす要因のひとつとされる表情認知の異常に焦点をあて、機能的MRIを用いて表情認知課題施行中の機能障害について検討した。平均3.8年と罹病期間の短い治療中の患者と年齢・性をマッチさせた健常対照者を比較した結果、陽性・陰性表情課題のいずれにおいても、患者群は対照者群より扁桃体活性が高い傾向がみられた。以上より、扁桃体機能異常による情報入力の処理障害が、不適切な感情表出あるいは他者の感情認知の歪みといった臨床症状の基盤にあることが推定された。一方、高機能発達障害(PDD)を有する成人例では、しばしば幻覚妄想状態を呈し、対人相互の関係障害が重度であるなど、統合失調症との鑑別診断に苦慮することも少なくない。今回、平均年齢23歳の成人のPDD群9例と年齢・IQをマッチさせた定型発達者24例を対象に、上記と同様の表情認知課題を施行した。その結果、定型発達者群では、既に多くの報告で示されているように扁桃体が強く賦活したのに対して、PDD群では有意に扁桃体の賦活が減少していた。以上の結果から、PDDの扁桃体機能異常が感情認知や対人相互関係に関与していることが推定された。さらに、統合失調症とPDDが相反する賦活パターンを示したことより、両疾患の鑑別、さらには病態の解明に表情認知課題を用いた機能的MRI研究が有用であることが示唆された。今回は、評価尺度による臨床特徴との関連は検討しておらず、また服薬による扁桃体の賦活パターンの変化は検討していない。今後、多症例による縦断面の検討により、病態や鑑別の有用性に加えて、治療戦略につながる知見がもたらされるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統合失調症の認知機能障害の背景にある病的基盤に関する研究をすすめている。初年度の研究では、脳波解析を新たな手法であるマルチフラクタル解析を用いて、本疾患では安静時脳波の複雑性が上昇していることを示した。23年度では、機能的MRIを用いて表情認知課題施行中の機能障害について検討し、本疾患の社会性の障害をもたらす要因のひとつとされる表情認知の異常にがあり、扁桃体機能異常による情報入力の処理障害が臨床症状の基盤にあることを指摘した。 以上、統合失調症の脳波および機能画像で示された異常が本疾患の認知障害の基盤にあることを示すデータが得られ、研究はおおむね順調に進展していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで病態に関する研究をすすめてきたが、臨床の実践においては治療戦略に関する方策を具体的に示すとこが不可欠である。今後の方策として、統合失調症の認知機能の改善がもたらされるとされるセロトニン関連物質を用いて、その有用性を検討する予定である。認知機能を測定する評価尺度については既に確立し、詳細な認知機能の変化についての経時的研究を進めている。一方、現時点では対象者が少ないこともあり、プラセボによる比較試験は24年度内には実施が困難と思われ、今後の課題と考えている。
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