統合失調症の認知機能障害の病的基盤を明らかにするため研究をすすめており、初年度はマルチスケール・エントロピー解析により本疾患の脳波異常を検討し、23年度は機能的MRIを用いて表情認知課題中の扁桃体の機能障害を検討した。統合失調症において、認知機能低下は社会復帰などの予後を左右する重要な因子であることが知られている。そこで、24年度は治療面に注目し、5-HT1Aアゴニスト(タンドスピロン)を投与し、治療前後の認知機能の改善をCANTAB (Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery)にて評価した。 陽性症状の改善した妄想型統合失調症患者2例に対して、残存した認知機能低下の改善目的に、タンドスピロン1日量40㎎から投与を開始し、2週間後に60㎎まで増量した。投与前、投与後2週、4週、6週にそれぞれCANTABの主要項目の7項目を施行し認知機能評価を行った。その結果、前頭葉機能を評価する項目のうち、Intra/Extra Dimensional Set Shiftは投与前から低下は認めなかった。その一方、ワーキングメモリー、実行機能の指標であるStocking of Cambridge、Spatial Spanに+1 S.D.以上の改善を認めたことより、本剤は認知機能の中でもワーキングメモリー、実行機能の改善に有効であることが推察された。 今後ひき続き多数例での検証が必要であるが、CANTAB が精緻な認知機能異常を同定するための有用な指標であることが示された。これまで神経生理学、画像イメージング、薬理学の各視点から多面的に検討してきたが、今回、5-HT1Aアゴニストが統合失調症のワーキングメモリー、実行機能を担う前頭葉機能の障害に対するあらたな治療薬となりうる可能性が示唆された。
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