1.研究の意義・目的 軽度認知障害(mild cognitive impairment ; MCI)のうちアルツハイマー病(AD)に移行する症例においては、AD前段階としての評価を早期に行い、早期に治療的介入を開始することが望まれる。本研究では、1)MCI患者の睡眠構造の特徴を明らかにすること、2)MCIの予後と相関のある睡眠医学的因子(睡眠構造、睡眠時ミオクローヌス(PLM)など)を見いだすことを目的としている。ADのハイリスク群を睡眠医学的観点から検証していきたい。 2.研究方法 本年度は、認知機能正常群(対照群)、MCI群、AD群(各群8例)で睡眠構造の特徴を比較した。本研究は、倫理委員会の承認を得た。全例で文書同意を得た。 3.成果 (1)結果 対照群の総睡眠時間339.3時間、睡眠効率68.4%、総睡眠時間に占める各睡眠段階の割合(非レム第1+2段階76.1%、第3+4段階8.3%、レム睡眠15.6%)、PLM指数24.1回/時だった。MCI群の総睡眠時間324.0時間、睡眠効率67.1%、総睡眠時間に占める各睡眠段階の割合(非レム第1+2段階81.4%、第3+4段階8.1%、レム睡眠11.9%)、PLM指数24.4回/時だった。AD群の総睡眠時間270.4時間、睡眠効率60.0%、総睡眠時間に占める各睡眠段階の割合(非レム第1+2段階88.7%、第3+4段階3.6%、レム睡眠7.6%)、PLM指数29.1回/時だった。 (2)まとめ AD群では他群と比べて総睡眠時間、徐波睡眠、レム睡眠の割合が有意に減少していた。PLMには差異がなかった。MCI群を対照群と比較すると、レム睡眠の減少がみられた。アセチルコリン系神経伝達の減少により、レム睡眠が減少することが知られている。MCI群には既にレム睡眠の減少した症例があった。今後の認知機能の経過を評価する必要がある。
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