研究課題/領域番号 |
22591287
|
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
竹内 義喜 香川大学, 医学部, 教授 (20116619)
|
研究分担者 |
今川 智敬 鳥取大学, 農学部, 教授 (20232605)
三木 崇範 香川大学, 医学部, 准教授 (30274294)
太田 健一 香川大学, 医学部, 助教 (50403720)
鈴木 辰吾 香川大学, 医学部, 助教 (50451430)
中村 和彦 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80263911)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | シナプス / アルコール / タンパク輸送 / オートファーゴゾーム / 離出様分泌 / 非小胞性輸送 / 迷走神経 / 衛星グリア細胞 |
研究概要 |
アルコール依存症モデル実験動物を使用し、正常動物と比較したシナプス構造の変化および物質移動の特徴を電顕的に観察した。頚部迷走神経に神経トレーサー(WGA-HRP)を注入した場合、アルコール実験動物にのみ認められた所見として、シナプス前膜が後膜と共に2次ニューロンに陥入する、いわゆる「離出様分泌構造」を示したことであった。この構造内にはHRP反応産物のみならず、シナプス小胞、大有芯顆粒、lamellar body、flattened cisternaeなどが含まれ、最終的には分泌として切り離され、2次ニューロンに取り込まれた。このような所見は従来の小胞性シナプス輸送である分泌形態とは全く異なっているものであった。その後、詳細に観察を行ったところ、さらにautophagosome様の構造物も含まれることがわかり、アルコールによる細胞ダメージに対する保護作用の存在、あるいはオートファジーを伴うプログラム細胞死があることを示唆する所見を得た。 さらに、今年度は上記のような神経終末における「離出様分泌構造」を示す神経細胞体および周辺のグリア細胞の変化についても研究を行った。迷走神経の神経節細胞に対するアルコールの影響も同時に観察した。この研究では神経節細胞の細胞内小器官には目立った変化はなかったものの、神経節細胞周辺に存在する衛星グリア細胞とくにマイクログリア細胞との関連性において、fine foot processによる神経節細胞体へのマイクログリア細胞の貪食作用という非常に特異的な電顕所見を得た。 感覚神経を用いた本研究では、アルコール誘因性神経機能障害は1)神経節細胞の衛星グリア細胞の活性化、2)autophagosomeによる細胞ダメージに対する保護作用あるいはプログラム細胞死の存在の示唆、および3)神経終末におけるシナプス輸送の変化の存在などが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルコール依存症モデル実験動物における変化したシナプス構造ではシナプス前膜が後膜とともに2次ニューロンに陥入するのがみられた。陥入部はやがて切り離され、結果として2次ニューロンに取り込まれることになる。この形態はまさに外分泌腺におけるものに酷似し、「離出様分泌」と断定できる。本研究で明らかにされたこのような伝達形態は従来まったく報告がなく、新規のシナプス輸送であるといえる。研究対象はこのような形態だけでなく、さらに細胞中のどのようなものが輸送されるのか、また、神経終末部においてどのような分子生物学的理由からシナプス前膜と後膜がそのような劇的変化をするのかを明らかにする必要がある。前者においては分子量66,000程度の酵素タンパクが入り、他にシナプス小胞や大型有芯顆粒もこの離出様分泌構造内に含まれるが、最も顕著なのは、autophagosome様の構造物が含まれいたことである。これらの所見は非常に重要であり、アルコールによる細胞ダメージに対する保護作用の存在あるいはオートファジーを伴うプログラム細胞死があることを示唆するものである。また、シナプス小胞や大型有芯顆粒が含まれていたことは、これらが従来の化学的シナプス伝達にのみ関与すると考えられていたが、それ以外のはたらきにも関与することを明確に示すものである。後者においてはアクチンフィラメントの関与も示唆されるが、これについては明確な結果を得られず、さらに脂質の変化も、シナプス部に限定して行わねばならず今後の研究課題として残っている。 さらに、神経節細胞の形態学的特長として、細胞体周辺に存在する衛星グリア細胞に関して、Iba-1染色により判明したマイクログリア細胞の活性化およこれらの貪食作用は新しい所見となった。 以上の結果は従来の報告にはない新しい知見であり、全体として、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
神経終末におけるシナプス構造の変化と物質輸送の新規理論的確立を目的とした最終年度の研究である。まず、提唱している「離出様分泌構造」は正常脳組織でも存在するかという問題が1つある。シナプス小胞では電子顕微鏡の正常所見として、開口分泌像は観察されないのが一般的であるが、きわめて稀に観察されることがある。このような例から、「離出様分泌構造」が正常でも観察されることがあるのかどうか、詳細に観察を行う。また、それらが存在する脳の領域も部位局在があるのかどうか調べる必要がある。 Autophagosomeが上記構造内に存在するが、これは細胞ダメージに対する保護作用の存在あるいはプログラム細胞死なのかを明らかにし、アルコールによる神経機能障害とシナプス構造の変化を解明する必要がある。このことは、神経細胞そのものの変化、つまり、神経節細胞の変化と関連グリア細胞の反応を詳細に解析し、障害に基づく変化を決定する。これらの変化がセロトニンやドーパミンという具体的な神経伝達物質のレセプターやトランスポーターにどのように影響をあたえるのか、さらに、臨床的にどのように精神神経疾患とかかわりを持つのかその機序解明もふくめ明らかにしていく。 さらに、本研究テーマである非小胞性シナプス輸送による解析では、WGAと結合したタンパクは輸送が亢進している。つまり、神経疾患においてこの輸送システムを使い異常タンパクを1次ニューロンから2次ニューロンまで移動できる可能性がある。将来、臨床的応用として,輸送システムを活用し、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドベータのシナプス輸送により、1次ニューロン内のアミロイドベータの減少あるいは蓄積抑制を行い、従来とは全く異なった観点から神経系の難病に対し、治療戦略を立てたい。
|