研究概要 |
目的と方法)高齢者の認知機能低下を来す要因を調べるため、2004年から2006年にかけて佐賀県伊万里市黒川町在住の65歳以上の高齢者の認知機能(MMSE, FAB)や抑うつの程度(ハミルトンうつ病尺度, HDS)及び年齢、性、家族構成、就労の有無、婚姻など様々な生活要因を調査し、唾液中3-methoxy-4-hydroxyl phenylglycole(sMHPG)濃度を測定した。3年後の2007年から2009年にかけて同じ集団を対象に認知機能とハミルトンうつ病尺度を測定し、認知機能低下に関連する生活要因やsMHPGの影響について前方視的に検討した。 結果)最初の調査を行った214名のうち2回目の調査まで終了した人は144名(男性44名、女性100名)であった。男性においてsMHPGの基礎値は1回目のHDS得点とは有意な相関は認めないが、3年後のHDS得点と有意な正の相関を認めた(r=0.40, P=0.007)。ロジスティック解析で2回目の調査でうつ状態と関連する1回目の調査での要因はsMHPGの高値と就労していないことであった。しかし、女性ではこの傾向は認めなかった。一方、認知機能については147名が対象となった。MMSE得点は2回の調査で有意さはなかったが、FAB得点は2回目に有意に低下していた。男性においてFAB得点の低下の大きさとsMHPGの基礎値が有意な相関を示し、sMHPGが高いほど3年後のFAB得点の低下が大きいことが明らかになった。 考察)男性のみとはいえ健常高齢者の唾液中MHPGの高値は将来のうつ状態や認知機能の低下に関連している可能性が示唆された。唾液採取は簡便であり、負担も少ないことから将来メンタルヘルスのスクリーニングに活用できるかもしれない。
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