わが国において一昨年まで自殺者数が年間3万人を超える状況が続くなか、そのうち高齢者の占める割合は高く、今後さらに高齢化がすすむことを考えると、高齢者のうつ病対策は喫緊の課題と言える。熊本県球磨郡あさぎり町対象地区の平成24年1月時点で65歳以上の高齢者全員を対象に、前向き長期観察・介入研究を実施し、うつ病およびうつ状態の出現率を明らかにし、うつ病発症の危険因子を分析した。うつ状態の評価には、Geriatric Depression Scale(GDS)を用いた。1714名の対象者のうち有効回答率は67.0%であった。うつ状態と関連があった因子は、「年齢」「介護」「家族形態」「睡眠の質」「食欲」「金銭的不安」「希死念慮」であり、概ね昨年度調査と同様の結果であった。家族形態では、独居の場合が有意にGDS得点が高かった。わが国における自殺対策先進地域である東北地方での先行研究の多くは、高齢者の自殺およびうつ状態は、同居とくに多世代同居の場合に多いと報告されているが、今回われわれの調査では、うつ状態は独居の場合に有意に多く認められた。南九州における地域在住高齢者のうつ病に関する疫学調査はほとんどなく、その実態は不明である。東北地方においてこれまで蓄積されてきたデータとの共通点および相違点を抽出し、うつ病の地域特性(多様性)の実態を明らかにするとともに、南九州独自のうつ病ならびに自殺予防対策を考える上での基礎的データにしたいと考えている。
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