研究概要 |
本研究の目的は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)、レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies: DLB、前頭側頭型認知症(fromtotemporal dementia: FTD)などさまざまな変性性認知症の精神症状や行動上の問題(BPSD)の特徴を臨床記録より抽出し、その原因となる病理学的背景を明らかにすることである。特に、各々の変性疾患における原因蛋白に注目し、BPSDの発現に関与するメカニズムを、免疫組織学的手法を用いて明らかにすることを目的とした。 対象は、横浜市立大学医学部精神医学教室、東京都精神医学総合研究所、東京都立松沢病院に保存されている臨床記録と剖検脳である。 とくに本研究では、一部のFTDの原因蛋白として近年同定され、注目されているFUS(fused in sarcoma,日本語訳なし)について、生化学的分析を行い、その脳内での分布を調べ、臨床症状との関連を調べた。 FUSは、生化学的にはウェスタンブロットで72kDaの蛋白として同定され、脳内では神経網(ニューロピル)と核内に存在していることが確認された。電子顕微鏡による観察では、FUS陽性顆粒は神経突起内で、シナプト小胞の膜蛋白であるシナプトフィジンと共存していた。このFUSは、FTDの一つであるFTLD-TDPの患者の脳では、対照群と比べて多数認められた。一方で、ADの脳内ではFUS陽性顆粒の増加は認められなかった。以上より、FUSはFTLD-TDPの原因蛋白の一つであり、同疾患でみられる前頭葉症状の発現に関与していることが示唆された。
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