平成22年度は、強迫性障害患者86例を、同意の上エントリーし、その背景や症候学的特徴、精神病理などを聴取後、symptom dimensionにより分類し、治療法などを検討した。この中では、特に保存(hoarding)dimensionが優勢な患者において、SSRI、非定型抗精神病薬による増強療法、そして認知行動療法に対する抵抗性を確認した。しかしこの一群は、単一的なものではなく、保存症状自体が独立的に存在する群(primary hoarder)と、物をなくす心配(正確性の追求)、汚染物を触れない(汚染へのとらわれ)など、他の強迫症状に関連して物を溜めこむ群(secondary hoarder)に分類された。この二群では、様々な精神病理学的相違を認め、双方の独立性が推定されたが、治療予後はいずれも不良であった。この結果は昨年CNS Spectrum誌に掲載された。 さらには、symptom dimensionの臨床的な有意性を高める為、各患者の最も優勢なdimensionを分類基準として類型化し、その各群が如何に各dimensionの有する特性を反映し、治療法や反応性を含め差別化するかを検討した。その結果、約70%の患者では、主要なdimensionの特定、類型化が可能であり、汚染群や禁断的思考群では、正確性・儀式行為群、保存群に比して、SSRI、および行動療法に対する反応性は良好であった。一方、正確性・儀式行為群では、SSRIに対しては反応不良を示したが、非定型抗精神病薬による増強療法には良好な反応性を示し、その後はCBTのコンプライアンス、反応性も良好であった。この様な群間差は、symptom dimensionで推定される各dimension間の精神病理学的、生物学的相違とも相関すると考えられ、臨床に応用しやすい類型分類化に従っても、治療法や反応性、予後予測に有用となる可能性が示唆された。この結果は昨年Psychiatry Research誌に受理され掲載された。本年度は、これらの結果にPETなどさらに生物学的知見を加え、学会、英文誌への報告を行う予定である。
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