研究概要 |
脳血管障害,特に小血管病によって生じる大脳白質病変は,認知機能障害をはじめ様々な神経症状と関連があることが明らかになってきているが,その発現機序には未だ不明な点が多い。可視的な白質病変を客観的に定量評価し,加えて通常の画像検査では捉えられない微細構造や代謝状態の変化をも勘案して診断する手法が確立していないのがその一因であると考えられる。このため本研究では,大脳白質病変分布パターンのコンピュータ・プログラムによる特徴抽出と,新しいMRI撮像法による解析結果を統合し,数理統計学的に臨床症状を予測する新しい方法論を確立することを目的としている。 本年度は,大脳白質病変の形成過程を分析する上で重要な役割を果たす神経軸索伸長の推理統計学的モデルの構築をすすめた。神経細胞成長円錐の伸長をランダムウォークによって発生する伸長ベクトルとして表現し,その伸長ベクトルが周囲のガイダンス因子の濃度勾配によって修正を受け最終的な伸長ベクトルが決定するモデルを構築した。本モデルをMicrosoft Windows環境でプログラム化し,構築モデルを用いたコンピュータ・プログラムによるシミュレーションを行った。さらに,ラット嗅索の神経細胞を培養し,実際の神経軸索画像を得た。このシミュレーション結果と培養実験による神経軸索の分布が確率分布上よく一致することを統計学的に検証し,学術論文に発表した。この成果は現在進行中である大脳白質病変特徴認識アルゴリズムの開発に大きく貢献している。
|