放射線照射後に高次脳機能障害を認め、その原因として治療前からの認知症を除外できた症例に対して臨床試験を実施した。臨床試験の適確基準、除外基準には若干の微修正が必要であった。本研究機関では4例の症例が登録され、その内訳は原発性高悪性度神経膠腫1例、原発性低悪性度神経膠腫1例、中枢神経悪性リンパ腫1例、転移性脳腫瘍1例であった。年齢の内訳は30歳、67歳、72歳、72歳で、男性3例、女性1例であった。放射線照射の方法は全脳照射2例、拡大局所照射2例であり、前頭葉や側頭葉への照射線量は30Gy~60Gyであった。3例に放射線治療前の腫瘍摘出術が施行されていた。高次脳機能テストは全例治療前に実施し、その後は塩酸ドネベジルの服用3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月に実施した。高次脳機能テストで主治医とは異なる観察者による客観的な評価の結果では、塩酸ドネベジルの放射線治療後の高次脳機能に対する効果は、症例ごとに程度の差はあるものの全例で認められ、本治療方法の有効性が示唆された。塩酸ドネベジルの服用は全例で可能であり、1例の他原因で死亡した症例を除く3例で当初の計画通り服用でき、Grade 2以上の有害反応を認めなかった。本治療は放射線治療における高次脳機能低下に対する有効な治療手段の一つになると考えられ、今後は症例の適確基準を再検討し、より多くの症例でその効果を検討していきたいと考えている。また、塩酸ドネベジルの投与量に関しても再検討する事によって更に良好な治療成績が得られる可能性もあり、追加検討中である。
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