本課題では、再発・転移の抑制が重要な課題となっている膵がんにおいてX線や炭素線照射が細胞の浸潤能にどのような影響を与えるのか、それはどのようなメカニズムに依るか解析した。まず、膵がんに由来するMIAPaCa-2とPANC-1細胞の浸潤能は、X線によって共に誘導されるが、炭素線照射では、MIAPaCa-2では抑制され、PANC-1では誘導されることを見出した。22-24年度の解析結果をまとめると、以下のことが明らかとなった。1)MIAPaCa-2とPANC-1細胞は共に形態を変え、間葉性様浸潤とアメーバ様浸潤を行う。2)MIAPaCa-2ではX線照射によりメタロプロテナーゼ2の発現が誘導され、細胞外マトリックスの分解に使われる。3)PANC-1では炭素線照射によりプラスミノーゲン活性化酵素の発現が誘導され、細胞外マトリックスの分解に使われる。4)MIAPaCa-2とPANC-1は共に上記プロテアーゼを阻害すると、アメーバ様浸潤の割合が増加する。5)Rhoキナーゼ阻害剤は、アメーバ様浸潤を抑制するが、単独処理では間葉性様浸潤が増加し、結果的に浸潤細胞数は増加する。6)それぞれの細胞に特異的なプロテアーゼとROCK阻害剤を同時併用すると、放射線誘導浸潤能は抑制される。しかしPANC-1の炭素線誘導浸潤能は半分しか抑制されないので、他のシグナル経路が炭素線によって活性化された可能性がある。7)MIAPaCa-2に炭素線照射した場合には、間葉性様浸潤やアメーバ様浸潤に重要なシグナル伝達系因子であるsmall GTPase (Rac1とRhoA)の活性が共に抑制される。8) 2種類のプロテアーゼの放射線による転写誘導には、DNAメチレーション状態の変化は伴っていなかった。治療への応用のためには、放射線応答浸潤性の異なるがん細胞を放射線照射前に予測できる分子マーカーの同定が必要である。
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