【研究開始当初の背景】リンパ管は血管とともに身体のあらゆる組織、臓器に張り巡らされており、外敵に対する防御、免疫、老廃物の排出、静脈への水分、タンパク質の還流を司っている。 このリンパの停滞は四肢のむくみのみならず、全身の諸機能に影響を及ぼすものと考えられるが、現在、ヒトのリンパ機能をベッドサイドにて測定しうる検査法は確立されていない。 【研究の目的】ヒトのリンパ機能、とくに四肢のリンパ管機能の検査法の開発を目的とする。 【研究の方法】ヒトのリンパ管がリンパを駆出する圧、すなわちポンプ圧を測定する新規検査法の開発を行った。方法は被測定者に座位で下腿にマンシェットを巻き、赤外線カメラにて足背部に注射した蛍光色素(インドシアニングリーン:ICG)が移動する様を観察する。通常、リンパ管内に取り込まれたICGは、リンパ管の自動収縮能によって、体幹に向かって運搬され、足背部から鼠径部まで正常人では約10-15分で鼠径部まで到達する。四肢に巻いたマンシェットを加圧して(通常70mmHg)、リンパの流れを止め、そこから3-5分ごとに5mmHgずつ減圧していく。リンパ管のポンプ圧がマンシェットの圧を上回り、その上縁を越えた部位で観察された時点の圧をリンパ圧として記録した。またこの下肢リンパ圧の正常値を調べるため、20歳台から80歳台までの健常成人合計399人798肢に対して本検査を施行し、年齢ごと、男女別の下肢リンパ圧を測定した。 【研究成果】新規に開発した四肢のリンパ圧測定法は、被験者に有害な副作用を生じることなく、安全にリンパ圧を測定できた。図に示すごとく、リンパ圧は加齢と共に低下していき、70歳以上の高齢者では20歳代のリンパ圧の50~60%程度に低下していることが判明した。また加齢に伴うリンパ圧の低下は40~50歳前後の女性にとりわけ顕著であり、閉経とリンパ圧低下との関連が示唆される。
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