研究概要 |
今回の研究では,毛髪中の微量元素濃度を,実験室レベルの設備でありながら,毛髪の部分ごとに非破壊で測定できる全反射蛍光X線装置を用いて,毛髪中の微量元素,特にカルシウム濃度に焦点を絞って計測し,乳癌の早期診断に用いることができるかどうか検証している. 前年度の結果から測定の妥当性は示されているため,提供を受けた健常者および乳癌患者からの毛髪の計測を続行中である.現時点での結果としては,カルシウム濃度の絶対値は個人差が大きく,患者と健常者で絶対値としての差は認めないが,発見される数ヶ月前から発見時までの変化率でみると,乳癌患者では健常者より変化率が有意に大きいことがわかった.毛髪の各部位におけるカルシウム濃度は,毛髪が作られた時点での全身状態を反映していると考えられるため,今年度は,この変化がいつ頃から起こっているか,またどのように変化していくかを検証するとともに,もう少し標本数を増やして計測を行い,この方法が乳癌のスクリーニング法として適用可能であるかどうかについても,より詳しく検証する. この検査は現在の乳癌検診に取って代わるものではないが,毛髪は安全・簡便に採取可能であることから,もし毛髪測定により乳癌のスクリーニングが可能であれば,今まで種々の事情で乳癌検診を受けていなかった女性の中から早期乳癌を発見する機会を提供できるようになることが期待される.さらに,乳癌のタイプや進行度などのパラメータを含めて多変量解析することで,毛髪中カルシウム濃度測定が有効な乳癌のタイプを判定したり,進行度とカルシウム濃度の関係を知ることなどの成果も期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実際に測定してみると,健常者・乳癌患者とも予想より個人差によるばらつきが大きく,絶対値では有意差が出ないため集計方法に工夫が必要なことと,病院で検体採集を行っている関係上,健常者の検体数が不足している.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果からは,比較を行う時期(毛髪上では,毛根からの距離に比例する)が重要と考えられたため,今後は計測点を増やすなどの手段により、乳癌発見前の毛髪中カルシウム濃度の変化パターンを明らかにするとともに,健常者との差を検出しやすい計測点の条件を絞り込む.その上で,特に健常者の検体を増やして計測・集計を行い,有意差検定へ持ち込む予定である.
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