平成25年度は最終年であったため、基礎的検討についてはこれまでの結果についての総括的な研究発表を行った。2013年10月24~26日に行われた第51回日本癌治療学会学術総会において「バルプロ酸ナトリウムのHDAC阻害薬としての乳癌細胞増殖抑制機序の検討」として大学院生の馬渡俊樹先生が口演発表を行った。抗癲癇薬であるバルプロ酸ナトリウム (VPA) の持つHDAC阻害作用よる乳癌細胞への増殖抑制機序について検討し、その効果は、HDAC阻害による直接の分化、アポトーシス誘導のほか、HSP70 のアセチル化を介する間接的なHSP90機能阻害にて、HER2などのクライアントプロテインを阻害することによる分化、アポトーシス誘導がその機序として考えられることを報告した。 また、臨床試験による乳癌治療におけるVPA安全性と有効性の検討するために「(臨床試験1)転移・再発乳癌に対するパクリタキセル+valproic acidの臨床試験」と「(臨床試験2)転移・再発乳癌に対するアルブミン結合パクリタキセル+valproic acidの臨床試験」を実行し、症例集積を行い、臨床試験1では2症例、臨床試験2では2症例の登録がなされた。バルプロ酸ナトリウムによって、パクリタキセルによる末梢神経障害の予防効果や安全性を確認し、抗腫瘍効果も検討することを目的とした。治療の奏効率は50%であったが、研究のプライマリエンドポイントである末梢神経障害が登録症例の全例に出現(出現率100%)してしまい、バルプロ酸ナトリウムによって末梢神経障害80%を60%に低下させるという研究仮説を導くことは難しいと判断した。倫理的にこれ以上症例の集積は難しいと判断し、臨床試験での検討は中止とした。中止となった原因としては、臨床試験において規定したバルプロ酸ナトリウムの内服量(400mg/日)が少なかった可能性がある。
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