抗細胞抗体・抗がん剤付加ミサイル療法は血液性の悪性腫瘍には有効であるが、肺・膵がんなどの固形腫瘍に対しては無効とされている。この疑問を解くために、これまで抗がん剤耐性遺伝子・がん生存シグナル・がん幹細胞など分子生物学・細胞生物学的見地から取り組まれることが多かったが、抗体デリバリーという観点からアプローチされることはなかった。本研究は、(1)細胞内抗体インターナリゼーション(2)血管多寡・透過性(3)間質バリアという、抗体デリバリーに影響を与えると思われる因子についてがん種別に比較検討することで、腫瘍側生物学的因子としての特性を明らかにしようというものである。本年度は、(1)がん種別の細胞内インターナリゼーション効率の違いについて検討を行い、悪性リンパ種と抗CD20抗体の組み合わせでは、細胞株によらずに6時間以内に90%以上の細胞で抗体インタナリゼーションを認めた。一方、膵臓がん、大腸がん、乳がんと抗EpCAM抗体の組み合わせでは、24時間後においても全体的に抗体インターナリゼーションが低率であることと、15-50%と細胞株間での変動も大きく見られた。細胞内酵素を利用して薬剤を放出させるなどインターナリゼーションに依存した作用機序は、ミサイル療法が臨床現場で安定的に作用しない原因のひとつになり得ることが示された。(2)間質バリアを有する固形腫瘍モデルの作成及びその組織構築の病理学的検討を行った。乳がん株(MCF7、T47D)、大腸がん株(HT29、DLD1、HCT116、SW480)、膵臓がん株、(PSN1、SUIT2、CAPAN)についてXenotransplantモデルを作成した。膵臓がん株SUIT2とCAPAN細胞がコラーゲンを中心とする厚い間質で囲まれていることが明らかになった。間質バリアを有するがんモデルとして適切であると判断された。
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