Antibody drug conjugate (ADC)は血液性の悪性腫瘍には有効であるが、膵がんなどの固形腫瘍に対しては無効とされている。この疑問を解くために、抗体デリバリーという観点からアプローチを行った。本研究は、(1)細胞内抗体internalization (2)血管多寡・透過性(3)間質バリアという、抗体デリバリーに影響を与えると思われる因子についてがん種別に比較検討することで、腫瘍側生物学的因子としての特性を明らかにしようというものである。前年度までに、抗CD20抗体が悪性リンパ種(ML)でinternalization効率がいいことと、抗EpCAM抗体が膵臓がん(PC)でinternalization効率が悪いことを明らかにしていた。本年度は(2)(3)について、検討を行った。In vivoイメージングでは、血管が豊富で間質の少ないMLにおいて抗CD20抗体は血管外漏出後に腫瘍全体に送達されていたが、PCでは血管が少ないことと豊富な間質成分による間質バリアのために抗EpCAM抗体の腫瘍内部への浸透が抑制されていた。次いで、抗CD20抗体と抗EpCAM抗体には細胞内リリース型のカルバメート結合リンカーで抗がん剤SN-38を付加した(CD20-C-SN38、EpCAM-C-SN38)。CD20-C-SN38はMLで著明な抗腫瘍効果(40%でCR)を示したが、EpCAM-C-SN-38の抗腫瘍効果は弱かった。そこで、膵臓がん間質に豊富なコラーゲン4を標的にした抗体に、細胞外リリース型のエステル結合リンカーでSN-38を付加した(Col4-E-SN38)。Col4-E-SN38は膵臓がんで著明な抗腫瘍効果を示した。腫瘍側生物学的因子を明らかにして、適切なADCをデザインすることで、抗体デリバリーの改善と共に薬剤を有効に作用させることができることを明らかにした。
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