研究概要 |
本年度は昨年度に続き,CDDP,5-FU添加時の食道癌細胞株におけるDNA損傷の指標であるγH21AXとDNA修復蛋白Rad51 focusの発現を検討することで,これら薬剤による抗癌作用メカニズムについて新たな知見が得られた。得られた結果は以下の通りである。 1)食道扁平上皮癌細胞株であるTE1およびTE11の間で5-FUに対する感受性に差はなかったものの,γH2AX発現はTE11のみで増加した。 2)TE11で5-FU代謝関連酵素RRM-1をノックダウンすると,5-FU処理時のγH2AX陽性細胞は減少したが,感受性には影響を与えなかった。 3)TE11において,5-FU/CDDP併用によりγH2AXフォーカス形成は単剤に比べて若干増加したに過ぎなかったが,RAD51は有意に増加し,フォーカスの消失も大幅に遅延した。さらに,RRM-1をノックダウンするとγH2AXには変化を認めなかったが,RAD51に関してはフォーカス形成の減少を認め,5-FU/CDDP併用に対する感受性が低下した。 以上の結果より,従来代謝拮抗剤として考えられていた5-FUもDNAの二重鎖切断を引き起こしていること,およびRRM-1の発現の程度により5-FUの作用機序が異なってくることが示唆された。さらに5-FUとCDDPの相乗効果は,より強力なDNA障害を引き起こすことが機序の一つとなっていることが示唆された。 引き続きγH2AXおよびRad51蛋白を中心に,抗癌剤によるDNA損傷およびDNA修復のメカニズムを解明することで,DNA修復蛋白をターゲットにした臨床応用を目指したい。
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