本年度は、手術侵襲によって血管内皮前駆細胞(Endothelial progenitor cell : EPC)が動員されるか否か、また、手術侵襲によって癌が進展するか否かについて明らかにすることを目的とし、動物モデルを用いた検証を行った。 はじめに、本研究で用いる胃切開術の手術侵襲の程度を評価するために、炎症性サイトカインIL-6の血中濃度をELISA法にて測定した。その結果、全身麻酔も切開も加えていない対照群と比較して、術後6時間で血中IL-6濃度が有意に上昇していた(p<0.05)。また、EPC動員に寄与するケモカインSDF-1の血中濃度をELISA法にて測定したところ、術後12時間後及び24時間後で有意に上昇していた(p<0.05)。続いて、手術侵襲によるEPCの動員を評価するために、末梢血中のCD34陽性細胞及びCD34/Flk-1陽性細胞をフローサイトメトリーにて測定した。その結果、CD34陽性細胞及びCD34/Flk-1陽性細胞は術後12時間後に共に有意な増加が認められた(p<0.05)。一方で、術後3、7日目には対照群と比較して有意な差は認められなかった。以上の結果から、胃切開術という手術侵襲に伴い、一過性に骨髄から末梢血中にEPCが動員されることが示された。 次に、手術侵襲が癌の増大に及ぼす影響について検討した。GFP骨髄キメラマウスの背部にLewis肺癌細胞(5x106個)を皮下注入して、皮下腫瘍モデルを作製した。皮下腫瘍モデル作製3日後に胃切開術を行って手術侵襲群とした。術後隔日で腫瘍サイズを測定し、簡易式(長径×短径×短径×0.5)を用いて腫瘍体積を算出した。術後12日目の時点で、対照群と比較して、手術侵襲群では腫瘍体積の増大を認めた(p<0.05)。以上の結果から、手術侵襲が癌増大に関与することが示唆された。
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