胃癌患者において腹膜転移再発は高率に認められる。癌性腹水中のリンパ球においては抗腫瘍免疫からの逃避機構があると考えられているが、胃癌手術時の腹腔洗浄液中のリンパ球の抗腫瘍免疫における役割は未だ不明である。胃癌患者腹腔内のリンパ球を中心とした免疫環境を解析し、今後我々が予定している癌ワクチン臨床治験における対象症例を選択する際の基礎データとすることを目的として、研究を行った。対象は胃癌手術症例50例で、手術時に腹腔洗浄液を採取した。腹腔洗浄液において、細胞診、CEA値測定およびリンパ球解析を行った。リンパ球解析は腹腔洗浄液を遠心後、リンパ球分離比重液を用いてリンパ球を分離、リンパ球の表面抗原をフローサイトメトリーで解析した。結果、腹腔内遊離癌細胞陽性症例では腹腔内CEA値が有意に上昇していた。また腹腔内では末梢血に比べCD8陽性細胞の割合が高く、活性型T細胞が多く発現しており、細胞内サイトカインの非特異的刺激に対する反応性も高いことより、腹腔内は腫瘍局所と同等に癌、宿主間の免疫応答が行われる重要な場であると考えられた。さらに胃癌進行に伴い、腹腔内洗浄液中のCD8陽性細胞の相対的減少や、制御性Tリンパ球の増加、活性型T細胞の減少、サイトカイン産生能の低下などを認め、術中には腹膜転移を認めない症例においても腹腔内免疫抑制の傾向が確認された。以上より、腹腔内免疫環境の解析は、腹膜再発高リスク群の選別に有用であり、腹腔内は癌ワクチン臨床試験における薬剤投与ルートとしても有望であると考えられた。
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