食道癌における「ユビキチン類似蛋白質の意義の研究」を行い、以下の成果を認めた。 1.ウエスタンブロット 市販の抗SUMO-1抗体(monoclonal antibody 21C7)を用いたSUMO-1蛋白のウエスタンブロット分析では、食道癌細胞においてユビキチンと同様に複数のバンドが検出され、多数のSUMO化蛋白質が発現していた。 2.免疫組織化学的検討 食道扁平上皮癌96例を対象として、ホルマリン固定、パラフィン包埋切片を用いて抗SUMO-1抗体(PC603)にて免疫組織染色を行い検討したところ、SUMO-1は43例に発現を認め、癌細胞の核および細胞質が染色された。臨床病理学的因子との検討では、リンパ節転移、脈管侵襲に対して有意な結果を認めた。病期(p=0.086)、深達度(p=0.197)については進行により染色性が増加する傾向が認められた。生存率については、SUMO-1陽性群が陰性群に比べ予後不良な傾向を認めるも有意差はなかった。またSUMO-1の conjugating enzyme (E2)であるUbc9について免疫組織染色で検討を行ったところ、多くの癌細胞の細胞質および核に発現が認められていたが、発現レベルと臨床病理学的因子との関連は認められなかった。 3.RNAiによるSUMO-1蛋白質発現抑制の予備実験 siRNAの導入条件の設定のために、FITC標識オリゴ dsRNAを用いた導入実験を行ったが、取り込み率が30%程度のため十分な発現抑制が得られなかった。このためsiRNA導入後、添加から48-60時間後に細胞を回収し、ウエスタンブロットにより評価も行ったが、発現抑制(ノックダウン)の十分な効果は認めなかった。 以上の結果より食道扁平上皮癌においてSUMO-1の発現は、臨床病理学的因子において癌の進行と有意な関係が認められ、予後規定因子となりうる可能性が示唆された。
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