本研究計画の目的は、潰瘍性大腸炎に対する大腸全摘および回腸嚢肛門吻合術後に発症する回腸嚢炎の病態を、臨床および動物モデルを用いて明らかにすることであった。臨床研究においては当科での回腸嚢炎の発症頻度を明らかにするとともに、これまで明らかではなかった発症後の長期経過とくに抗菌薬治療に対する感受性の変化を検討し、これらの研究結果は米国の専門誌であるDisease of the Colon and Rectum 2012.3月号に掲載された。また動物実験ではラットを用いて回腸の一部を結腸に空置するモデルを作成し検討を行う予定であったが、当初は作成した動物モデルの多くが死亡するため、検討が遅れた。研究期間最終年度に至って、手技の改善に伴いモデル動物の生存を得る事ができたが、これを用いた検討を開始する以前に研究期間が終了した。今後も本モデルを用いた検討を継続していく予定である。 上述した当初の研究計画以外にも、本研究に派生して行った研究で大きな成果を得たので以下に付言する。近年腸管免疫機構、特にクローン病の病態と関連する事が推測されていたIL-23のレセプターが腸管上皮細胞中の神経内分泌細胞(EC cells)に発現することを我々は偶然見出した。従来、腸管粘膜においてIL-23レセプターは狭義の免疫細胞での発現しか報告されていなかったため、EC cellsに対するIL-23の作用についての研究を進めた。この結果IL-23がEC cellsに対してある種の細胞内シグナル伝達機構を活性化させるとともにサイトカインの放出を促すことを明らかにした。また大腸癌の一部においてもIL-23Rの発現を認め、これらの細胞に対してIL-23が増殖・浸潤を刺激する事を明らかにした。これらの結果の一部はOncology Letters 2012.8月号に掲載され、また別の結果は現在投稿中である。
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