研究課題/領域番号 |
22591482
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
塚原 完 信州大学, 医学部, 助教 (00529943)
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キーワード | リゾリン脂質 / 大腸がん / ハイドロゲル / 核内受容体 |
研究概要 |
生体内には脂肪酸を1本しかもたないリン脂質が存在しており、これをリゾリン脂質と呼んでいる。通常は2本あるリン脂質の片方のアシル基が酵素反応により切断された脂肪酸で、多様な生理活性をもつことが報告されている。そのなかでも,リゾホスファチジン酸(LPA)は最もよく研究されてきたリゾリン脂質である。最近、申請者はLPAアナログの1つである環状フォスファチジン酸(cPA)が核内受容体の1つであるPPARγに対してアンタゴニスト活性を持つことを報告した。今年度、研究代表者はCPAのアンタゴニスト活性と癌細胞の増殖抑制作用の検討を行い、さらにより効果的な治療を行うための基礎的研究を実行した。CPAが大腸癌細胞株HT-29細胞に十分な抗腫瘍活性を示すためにはCPAの生体内における酵素的分解を避ける必要があり、これが医薬品として開発・応用する際の障害になっている。そこで、CPAの特異的な分子標的抗腫瘍活性を最大限に発揮させるために、ハイドロゲルのドラッグデリバリー能力を利用した大腸癌治療法を検討した。ハイドロゲルの中でもゼラチン由来のゲルはCPAを効果的に内包させる事が明らかになり内包したCPAは長時間にわたりハイドロゲルから溶出されることをLC-MSを利用した実験により確認した。さらに、細胞内に存在するCPA分解酵素のひとつであるフォスファターゼによる攻撃からも、ハイドロゲルは効果的にCPAを保護することを確認した。また、CPA内包化ハイドロゲルはHT-29細胞株の遊走(Migration)を効果的に抑制し、CPA単独で使用したときと比較して高い有為差が認められた(論文サブミット中)。すなわち、CPA内包化ハイドロゲルは癌転移の抑制に有効である可能性が示された。今年度は複数の大腸癌細胞株を利用し、マウス移植ヒト腫瘍モデルを利用した動物実験による治療効果の検討に入る予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成22年度および23年度の達成状況は交付申請書に記載した計画予定(CPAの酵素合成法と精製、純度検定と大腸癌細胞株を利用した細胞増殖抑制作用の検討)とほぼ一致しており、進捗状況はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はこれまでの基礎研究結果を応用した動物実験に入る予定である。具体的にはマウス移植ヒト腫瘍モデルを利用した治療効果の検討である。現在、研究計画の変更および遂行上の問題点は見当たらないが、動物を利用したデリケートな実験であるため、生命倫理を十分に重視し、研究活動を行う。またこれらの結果は国民の皆様に報告していくためにも、論文報告はもちろんとして、研究結果が理解しやすい形で報告する工夫をする。既に平成22年度および23年度の研究結果は論文発表の他に新聞報道(日刊工業新聞および信濃毎日新聞)により紹介されており、今年度も同様に継続していく。
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