核内受容体であるPPARγは大腸癌細胞に強く発現しているが、その生理的意義付けは不明である。今回PPARγアンタゴニストであるcPAが大腸癌細胞株の増殖制御因子として働くことをin vitro試験において明らかにした。cPAはPPARγの活性化抑制依存的に大腸癌細胞の増殖を抑制し、さらに細胞死を誘導することを示した。この結果は大腸癌細胞に限らず、PPARγが高発現している癌細胞においてもcPAが効果を示すことを示唆するものであり、かつ重要な知見である。ヒト由来の大腸がん細胞であり、PPARγ高発現株であるHT-29細胞を利用して、in vitroにおけるcPAの細胞増殖抑制効果を検討し、cPAの生理活性を評価した。酵素合成法により調製したcPAはレポータージーンアッセイ法により評価し、PPARγに対するアンタゴニスト活性を持つことを明らかにした。さらに炎症性ケモカインの1つであるMCP-1の発現と分泌がLPA刺激依存的に亢進されることを明らかにし、cPAが有為にその作用を抑制することをつきとめた。申請者はcPAによるPPARγアンタゴニスト作用を利用した疾病治療法をこれまで検討してきたが、cPAを水溶液の状態で患部へ投与しても、濃度が希釈されるため、治療効果が低くこの問題を解決するために、作用部位にcPAを直接デリバリーできるシステム技術を開発することが必要となった。申請者は医療用ハイドロゲルをcPAへ吸収させハイドロゲル-cPA複合体を作製した。cPAおよびLPAはマイクロカプセル化技術の応用により、体内投与時に生じる加水分解を抑制しており、さらに長期徐放効果についても優れていた。今後、ハイドロゲル-cPA複合体をin vivo試験に呈し効果を検討する。cPAは医療等への応用において多くの可能性を秘めている物質であり、大腸癌発症の予防と治療という観点から重要な分子である。
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