研究概要 |
CXXC5タンパクはMLH1遺伝子のプロモーター領域に結合し,MLH1転写制御に関与する因子として我々がごく最近見いだしたタンパク性因子である.本研究は,CXXC5を中心に,DNA修復遺伝子の1つMLH1の生理条件での転写制御機構を分子レベルで解明することで,大腸癌をはじめとした病態でのMLH1発現抑制の仕組みを理解することを目的とする.さらに,得られた知見をもとに制御因子異常を指標とした病理診断や病態予測への応用研究の基盤を築くことも目指す.本年度はCXXC5を含む転写制御複合体の同定を行った. CXXC5を含む転写制御複合体を同定するために,免疫沈降法,電気泳動,ならびにnanoLC/MS/MS解析を用いて,CXXC5と相互作用するタンパクの同定を行った.次いで,同定されたタンパクについて,RNAi法を用いてMLH1転写制御活性の有無を調べた.その結果,CXXC5と複合体を形成し,MLH1転写を制御する新たな因子としてhnRPH1が同定された.一方,我々はすでに,DNAには結合しないもののMLH1転写量を正に制御する因子としてSYF2を見いだしている.CXXC5と同じ解析手法を用いて,SYF2と相互作用する因子についても検索したところ,やはりhnRPH1が見いだされた,これら因子が1つの複合体を形成するのか,あるいは,それぞれの複合体を形成し独立的もしくは協同的に働くのかなどの制御様式については現在検討中である.また,今後は低酸素状態などMLH1発現が抑制される条件でのこれら因子の発現や機能の異常についても検討を行う. 本年度に実施した研究により,複数の,かつ,互いに相互作用する転写制御因子を見いだした.本成果は,生理条件でのMLH1転写制御機構の解明のみならず,大腸癌をはじめとする病態でのMLH1発現異常の仕組みを理解する上でも極めて有用である.
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