DNA修復遺伝子の発現異常はゲノム不安定性を引き起こし,癌をはじめとした種々の加齢性疾患の原因となる.散発性大腸癌でも遺伝子変異やエピジェネティック変異,腫瘍微小環境低酸素を要因とした種々の修復遺伝子の発現低下が認められる.しかしながら,これら遺伝子の発現制御機構については必ずしも明らかとなっていない.本研究では,散発性大腸癌で高頻度に発現抑制が認められる修復遺伝子MLH1に着目し,新規因子CXXC5による発現制御を分子レベルで解明し,大腸癌など病態での発現抑制の仕組みを理解することを目的とした.また,制御因子異常を指標とした病理診断や病態予測への応用研究の基盤を築くことも目指した. CXXC5はMLH1の転写を正に制御する因子として見いだしたタンパクで,特徴的なZnフィンガードメインを有する.同様のドメインをもつ他のタンパクにはメチル化DNA結合因子やクロマチン修飾因子が知られているが,CXXC5についてはDNAやタンパクとの直接の結合は報告されていなかった.本研究で,昨年度までに,CXXC5が単独でMLH1上流のシスエレメントに特異的に結合することやmRNAプロセシング関連タンパクSYF2やHNRNPH1と協調してMLH1転写を正に制御することを見いだしてきた.本年度は,MLH1発現抑制の一要因として知られる低酸素でのこれら因子の役割を検討した.その結果,CXXC5とHNRNPH1は転写レベルでの発現低下により,SYF2はプロテオソームによるタンパク分解により,それぞれ低酸素下でタンパク量が低下することを見いだした.さらに,MLH1の低酸素性発現抑制はこれら3因子の共発現によって回復することも見いだした.これらの結果は,腫瘍塊で生じる低酸素下でのMLH1発現抑制の責任分子がCXXC5やSYF2,HNRNPH1であることを示唆すると考えられた.
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