研究概要 |
生体部分肝移植は末期肝不全症例などの良性肝疾患のみでなく、肝癌などの悪性例にも適応が拡大されており、今後症例数は益々増加すると思われる。一方で脳死例からの肝移植ドナーは、臓器移植法の改正によりやや増加の傾向は認められるが、現状では十分ではない。その点でドナー不足に対して脂肪肝graftを用いることはその一助となると考えられる。しかし脂肪肝graftの利用は肝移植後の過小graft (small for size graft)やprimary graft nonfunctionなどの致死的肝不全に陥るリスクがあり、この機序の解明と安全性の確立は重要な課題であり、また脂肪肝ドナーの肝切除術後の安全性の確立は、メタボリック・シンドローム時代における脂肪肝症例に対しての外科手術の安全性を確立する上からも重要である。肝再生に関する報告において、実際に起こっている細胞内での経時的なリン酸化シグナルの解明はいまだ不明な点が多く、脂肪肝での報告はほとんどない。本研究の目的の一つは、脂肪肝graftの適応拡大のために、脂肪肝肝切除後の肝再生に関するリン酸化シグナルの解明と正常肝との差異から、新たな治療戦略の確立である。肝切除モデルとしてレプチン受容体遺伝子異常をもつdb/dbマウスとそのcounter partを用いて70%並びに80%肝切除モデルを作成した。同様にC57BL/6マウスに高脂肪食を投与し脂肪肝を作成して、同様に肝切除モデルを作成した。経時的に(肝切除前、1,4,8,24,72,120,168時間後)、肝組織・血清を採取しBio-Plex suspension array systemを用いて、肝組織でのリン酸化シグナルの網羅的検索を行い、正常肝と脂肪肝での相違を検討したところ、pAKtなどに発現の相違が見られ、また48時間後の生存率において、80%肝切除施行時に、脂肪肝では低下が認められ、再生低下や肝障害の増強が示唆された。次に血清を用いて同様に網羅的に検討する予定である。
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