研究概要 |
本研究の目的は、抗酸化ストレス酵素群及びその中枢的転写因子であるNrf2の発現を基に、肝細胞癌組織中の治療抵抗性細胞集団を同定選別し、それらの特徴を調べることで臨床的な治療に応用することであった。 切除検体凍結組織を用いたNfr2免疫染色では非癌部に隣接した癌細胞にNrf2蛋白が強発現したが、質量顕微鏡などの解析ではNrf2発現癌細胞集団に一致するような特異的分布を示す分子種は同定されなかった。ただし、肝細胞癌組織にはある種のPhosphatidylcholine (PC)が多量に蓄積していることが判明した。よって、この新たな発見に基づいた別研究を発展させ、PC蓄積の原因となる酵素Lysophosphatidylcholine acyltransferase 1 (LPCAT1)を同定、LPCAT1強発現が肝細胞癌悪性化につながることを確認して論文投稿した(Morita Y et al. J Hepatol, in press)。 Nrf2を主体とした解析では治療抵抗細胞同定は困難と考え、抗癌剤の汲入及び排出を司るtransporterの解析を行った。Western blot および免疫組織染色にて、微細胆管側へ薬剤を排出するtransporterのMultidrug resistance protein (MDR) 3低発現群が有意に予後不良であった。現時点では何故MDR3発現の差が肝切除後予後に影響を与えるかは不明である。しかし、質量顕微鏡解析ではMDR3多寡でリン脂質PCの組成に差が観察されている。このことはMDR3が細胞膜リン脂質のFlippaseと働くことが関係していると予想している。 当初の予想とは異なっていたが、transporter蛋白の免疫染色によって肝細胞癌切除後の予後予測が可能であることは、臨床上意義が深く、現在論文投稿準備中である。
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