研究課題
Gemcitabine(GEM)により膵癌治療成績は改善したが、長期生存例を生み出すまでには至っていない。これまでのゲノム解析・プロテオミクス解析などにより、GEMの薬剤耐性機序としてトランスポーターが重要である可能性が示唆されてきた。そこで、トランスポーターに影響を受けずに癌細胞内へ移行でき、癌細胞内で容易に活性型となる特徴を有する。New-GEMの試作を試みた。モデルケースとして、GEM耐性の膵癌細胞株3種類(GEM感受性が高いもの、中等度のもの、低いもの)から耐性細胞株を樹立し、New-GEMを試みたが、いずれも有効ではなかった。耐性の分子機構を解析するため、GEMの細胞内取り込み、細胞外への代謝産物の排出を質量分析で調べたところ、両者とも極めて迅速であったが、細胞内で活性化させる際のKey enzymeであるdeoxycytidine kinase(DCK)の不活性化変異がすべての耐性株で見られた。さらに3つの耐性株を樹立して調べたところ、DCKの不活性化変異が2株で見られ、最終的に5/6(83%)の耐性株においてDCKの不活性化が関わっていることが判明した。膵癌の早期診断のためにメタボローム解析を行い、いくつかのバイオマーカーとなりうる分子を特定することができた。パイロット的に少人数の患者検体データでは、これらの中にきわめて有望と思われる分子があった。今後、多数の患者検体を用いたvalidateが必要である。
2: おおむね順調に進展している
New-GEMの試作物は樹立したGEM耐性細胞株には有効ではなかったが、重要な耐性の分子機構を明らかにすることに成功した。当初の予想と大きく異なる事実が判明したが、それに対抗する方策へのヒントが得られたため、おおむね順調に進展していると判断する。
GEM耐性の分子機構としてトランスポーターによるものもあるであろうが、DCKの不活性化によるものも重要であることが判明した。したがって、今後の研究の方向性としては、以下の項目が重要となる。(1)DCKを介さない抗がん剤の併用による膵癌治療(2)DCKを利用しないNew-GEMの開発。次年度はこれらに力点を置いて研究を進める。
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