研究概要 |
コレステロール合成経路と癌の発育、進展を検討する一環として大腸癌切除症例と高脂血症治療薬スタチン内服との関連を検討した。2000年~2006年までにR0が得られた大腸癌切除症例742例を検討した結果、スタチンを内服している群が有意に予後良好であったため、その群の全体の97%が内服していたスタチン(pravastatin,simvastatin,fluvastatin,atorvastatin)を使用し6種類の大腸癌細胞株でMTT assayを施行したが、pravastatinには抗腫瘍効果が認められず、SREBP2の発現をWestern blottingで確認すると、コレステロール合成経路抑制効果は発揮されておりスタチンの持つ抗腫瘍効果はメバロン酸カスケードとは関連がないことが判明した。そこで、epigenetic moleculeのスクリーニングを行うと、EZH2の発現抑制とHDAC5の発現増加が認められ、この2つの候補遺伝子を更に検討するとEZH2の発現抑制に伴いp27の発現が増強し抗腫瘍効果が発揮されていることが判明した。HDAC5に関しては、classII HDAC inhibitor(MC1568)を用いて機能を抑制したところ、スタチン単独よりも相乗的な抗腫瘍効果を認めたことから、HDAC5の発現増加はEZH2抑制によるfeed backであることが示唆されたため、siRNAを用いてEZH2を抑制すると予想通りにHDAC5の発現を認めた。 pravastatinに抗腫瘍効果が認められなかったことから、今後の臨床研究では少なくともpravastatinは使用すべきではなく、また、スタチンとMC1568の併用がスタチン単独よりもp27の発現を増強すること、MTT assayで相乗的に腫瘍抑制効果が認められたことから大腸癌に対する新規治療法になる可能性があると考えられる。
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