研究概要 |
FGFR2の選択的スプライシングアイソフォームのFGFR2IIIcは、ヒト膵癌症例の約70%に発現しており、FGFR2IIIc陽性症例は術後の肝転移の出現までの期間の短縮を認めた。FGFR2IIIc遺伝子発現ベクターを、膵癌培養細胞に遺伝子導入したところ、in vitroで細胞増殖能の亢進、in vivoで腫瘍体積の増大が見られた。FGFR2 IIIcの機能にはERKのリン酸化、及び癌幹細胞が関与していた。また、FGFR2IIIcに対するポリクローナル抗体を作成し、膵癌培養細胞に投与したところ、用量依存性に増殖抑制効果が認められ、細胞の遊走能も抑制された。これらの結果より、FGFR2IIIcが膵臓癌の新たな治療標的となる可能性が示唆された (Ishiwata, Am J Pathol, 2012)。 次に、FGFR2の別のアイソフォームであるFGFR2IIIbへのスプライシングを促進させるepithelial splicing regulatory protein (ESRP) 1を遺伝子導入すると、膵癌の転移が抑制された。 さらに、FGFR2の制御機構を検討するため転写因子や遺伝子増幅、塩基配列について検討した。その結果、約40%の膵癌症例と膵癌培養細胞で、FGFR2遺伝子の増幅がみられた。FGFR2の転写因子であるNF-YA,B,Cは多くの膵癌症例において、癌部分で正常部位よりも発現が亢進していた。膵癌培養細胞と膵癌組織の約半数で、intron2に5か所以上のSNPsがみられた。以上より、膵癌のFGFR2の発現亢進には、遺伝子増幅、転写因子、SNPsが関与している可能性があり、FGFR2の発現制御は、膵癌の治療標的となると考えられる。
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