慢性的ドナー不足のため、心臓移植に代わる治療の必要性は高い。かつての骨格筋を用いた心筋形成術は長期耐久性に欠けていた。近年は再生医療との組み合わせにより、再び注目されている。しかし、その再生心筋の有効性は不明で、倫理的問題も残っている。我々は形状記憶合金を用いた人工心筋の開発を行ってきた。形状記憶合金は生体材料に比べ製造は簡便で、その補助効率も医工学的に調整が可能である。その駆動エネルギーも大きくなく、長期耐久性にも期待が持てる。本研究の目的は形状記憶合金による心筋形成術が心不全治療の新しい治療になるか検討するため、動物心不全モデルを用いてその有用性を評価することである。 本年度は、不全心の形態に合うような人工心筋の装着法を確立するため、モック実験を追加し、人工心筋装着方法を検討項目として加えた。 共同研究者らが先行実験として行った人工心筋実験は健常心に対して行われたものであるが、健常心の左室形態は楕円形であるのに対し、不全心は球形であり、球形心のモック実験で最も効率よく心筋の収縮を補助できる装着法を決定した。3回のモック実験の結果、一本の太い人工心筋よりも2本のやや細い人工心筋を用いて、クロスする形で左室周辺に巻くことにより補助効果が増すことが判明した。 そのデータをもとに、急性実験による縫着法変更に伴う血行動態の比較を行った。その結果約10%の補助効果が得られることがわかった。また心拡大に伴う僧帽弁逆流も人工心筋を巻くことで逆流の減少、消失を認めることがわかり、今後人工心筋装着法の簡便化により、胸腔鏡下での装着など、より低侵襲の方法での治療の可能性が示唆された。
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