研究課題
人工血管置換術およびステントグラフト内挿術が治療主体である大動脈瘤に対して、アディポネクチンの抗炎症作用効果及び抗動脈硬化作用を利用した新たな治療体系の開発およびその臨床応用を本研究とする。アディポネクチン治療による瘤拡大および破裂予防をすることにより、低侵襲な治療法の確立を目的とする。血中に大量に存在するアディポネクチンが人のAMI、DCMなどの障害組織に浸潤していることが知られはじめている。一方、大動脈の瘤形成には限局する炎症反応が大きく関与していることが明らかとなっているが、大動脈瘤においてもアディポネクチンが同様に浸潤し、何かしらの治療転帰をうながしている可能性がある。しかしながら、全世界的に見て、アディポネクチンと大動脈瘤形成との関係を論じた報告は皆無であり、まずは人の大動脈瘤壁を組織学的観点より検討し、大動脈瘤壁におけるアディポネクチンの発現を解析した。腹部大動脈瘤壁(n=20)に対し抗アディポネクチン抗体を用いた免疫組織染色法を用いて検討した結果、大動脈瘤壁にはアディポネクチンが浸潤しており、かつアディポネクチンと炎症細胞の二重染色を加えることにより、炎症細胞にアディポネクチン蛋白が局在していることが判明した。かつ、浸潤しているアディポネクチン蛋白と血中アデイポネクチン蛋白との相関関係及び瘤形成に血中アディポネクチン蛋白がいかに関与しているかを検討するため、現在腹部大動脈瘤を合併している患者の血清データーを蓄積中である。さらに、我々は移植すると長期的に安定してアディポネクチンを供給する新しいcell sheet-based drug delivery systemを開発したが、当科の研究によりそのアディポネクチンシートが急性心筋梗塞あるいは心筋炎に効果があることを明らかにし、今後大動脈瘤治療に有用となりうる可能性を示した。