研究課題
近年我々はアディポネクチンのdelivery法として未分化の脂肪間葉系幹細胞をアディポネクチンを多量に分泌する脂肪細胞に分化させ、この細胞を温度感応性培養皿上で脂肪細胞シートを作成し、移植すると長期的に安定してアディポネクチンを供給する新しいcell sheet-based drug delivery systemを開発した。今回の研究にてアディポネクチンを長期に安定して供給しうる脂肪細胞シートをマウス大動脈瘤モデルに移植し、その効果を検討するとともに大動脈瘤に対する作用機序・メカニズムおよびその治療効果を検討することを目的としている。また、我々は本研究において人の大動脈瘤組織標本のアディポネクチン浸潤の局在性を検討するとともに、大動脈瘤形成におけるアディポネクチンの役割を解明し、臨床的にはその抗炎症作用あるいは抗動脈硬化作用により大動脈瘤治療に応用できる可能性を模索する。まず、腹部大動脈置換術の際に大動脈瘤病変を採取し、凍結保存した。保存サンプルを凍結切片で切り出し、切片をマウス由来の抗ヒトアディポネクチン抗体(ANOC9121)で免疫染色した。結果、アディポネクチン染色は大動脈瘤切片中に散在して認め、核および細胞に一致した集積を認めた。特に細胞が集積していると思われるDAPI染色の集積部に密集していた。また、Vasa vasorumの血管腔と思われる部位での集積を認め、正常血管では大動脈瘤切片で認められるような細胞密集やアディポネクチン濃染像は認めなかった。大動脈瘤切片は血管内皮細胞、繊維芽細胞、炎症性細胞、血管平滑筋細胞を含んでおり、今回の検討では、まばらに散在するアディポネクチン染色を認めたが、特徴的であったのは細胞の密集部に濃染していたこと、Vasa vasorumでの染色を認めたことであり、現在までの検討で血管内皮細胞およびマクロファージなどの炎症性細胞とアディポネクチンとの結合が示唆されており、今回の検討ではこれらを肯定するものと考えられた。