マウス大動脈遮断モデルを用いヒストン脱アセチル化酵素阻害薬(HDAC)による虚血性脊髄障害への効果について、HDAC投与の時期を変化させ検討した。全身麻酔下に大動脈弓部を5分間遮断し脊髄虚血モデルを作成した。HDAC法は、虚血7日前(HDAC7群)、3日前(HDAC3群)、前日(HDAC1群)にHDACを腹腔内投与した。非治療群(C群)はDMSOを腹腔内投与とした。その結果、C群では10匹中10匹が48時間後に遅発性対麻痺を発症したが、HDAC7群およびHDAC3群では8匹中8匹で対麻痺を認めた。HDCA1群では8匹中7匹で対麻痺を来し、1匹は再灌流後死亡した。病理組織学的検討では、HDAC群では虚血後48時間目に脊髄前角に空砲を伴う運動神経細胞損傷が認められた。さらに、活性型カスパーゼ3に対する免疫染色では、両群で虚血後30時間目から脊髄運動神経細胞が活性型カスパーゼ3陽性となり、アポトーシスの指標であるTUNNEL染色でも陽性であった。さらに対麻痺脊髄において、グリア細胞(活性型マイクログリア、活性型アストロサイト)の集積が認められた。一連の研究結果では、HDACを腹腔内投与させたが運動機能、病理組織にその予後を改善することは認められなかった。また、活性型カスパーゼ3発現も抑制されていないことから、今回の投与方法ではHDACによる神経細胞アポトーシスを抑制する可能性は少ないと考えられた。
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