球状の人工心筋組織を作成するのに至適な培養条件の設定を行ってきたが、発生する収縮力やカルシウム、β刺激薬に対する反応性などについて安定した結果が得られていなかった。これまでの報告では、新生児の心筋細胞を用いて組織を作成すると、培養期間中に急激に細胞が成熟し、本来の心筋組織に準じた組織が形成されると報告されている。しかし、コラーゲン、馬血清、鳥胎児抽出物などの条件設定だけでは十分な細胞の成熟、組織の作成が困難な可能性があるため、組織の発生に立ち返り心筋細胞の成熟についての検討を行うこととした。 発生を簡便に検討する為、材料となる細胞はES細胞を用いた。即ち、ES細胞とコラーゲンを混合した細胞混合物を培養することにより三次元の組織を作成した。心筋細胞の成熟に影響を与える可能性があると報告されているアスコルビン酸を添加し心筋細胞への分化の効率について検討した。コントロールとしてES細胞をハンギングドロップ法により培養し同様に検討した。なお、この実験系においてはコラーゲンゲル内での三次元でES細胞の分化を阻害する物質を除去し培養することによって心筋細胞への分化が確認できれば、新たなES細胞の分化誘導方法となる可能性を示す結果であると考えられる。 コラーゲンゲル内での培養、ハンギングドロップ法での培養の両方において、心筋細胞への分化がリアルタイムRT-PCR法によるαMHC遺伝子の発現の検討で明らかとなったが、アスコルビン酸の添加によって分化の割合が高くなることは確認されなかった。しかし、これはコラーゲンゲル内での三次元培養それ自体に心筋細胞への分化を誘導する可能性があることを示す結果であると考えている。この結果を踏まえ、現在は球状の人工心筋組織を作成する為のコラーゲン、馬血清、鳥胎児抽出物と細胞の混合物に添加するその他の物質についての検討を継続して施行している。
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